全身麻酔 脳波解析プログラミング: Python, R, MATLAB & Processing

全身麻酔脳波解析プログラミング

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麻酔科医は,手術を受ける患者さんに全身麻酔をかけて,一時的に患者さんの意識を無くして,そして手術が終われば麻酔から覚まして患者さんを覚醒させます.全身麻酔がどれくらい深い状態にあるのかを評価するためには,市販の脳波モニタが用いられています.つまり,麻酔深度測定に脳波の計測を用いている訳です.その測定原理としては,覚醒時の脳波では10Hz以上の高い周波数成分を持つβ波,γ波成分を主体としますが,普及している全身麻酔薬の作用による全身麻酔のもとでは,脳波が変化して,振幅の増加とともに徐波化して10Hz前後以下の紡錘波(spindle waves)やθ・δ波成分が出現することが関わっています.

脳神経科学では脳波が変化する現象の説明として,全身麻酔薬が脳内でGABAA受容体の感受性を高め,抑制性神経伝達を促進し,大脳皮質や視床での活動電位の形成抑制や過分極を起こし,視床皮質投射ニューロンの群発的な発火リズムの発生することなどが,脳波変化の原因とされています.しかしながら,年齢や使用する麻酔薬剤などでも変わることから,まだまだ調べることがいっぱいありそうです.そこで全身麻酔の深度測定が関わる研究には脳波の周波数解析等の脳波の処理が重要です.

パーソナルコンピュータの機能はかつてのスーパーコンピュータ並となり,またコンピュタープログラミング技術も日進月歩に進化しています.一方で,臨床研究に携わる若い医師のプログラミング能力は,年々,世代毎に低下しているように感じています.おそらく膨大な医学の知識を求められる中でコンピュータ・サイエンスの理解に費やす時間が年々減少しているのではないかと感じています.私も一素人プログラマーの一人ですが,8ビットパソコン(NEC PC-9801世代)でのN88-BASICからずっと現在の64ビットパソコンまで,35年間プログラミングとお付き合いしてきたこともあって,多少のプログラミングは取り扱えるようになりました.素人プログラマーの域を越えていませんが,科学演算が関わる臨床医学の問題を考えて研究していくには,プログラミングの専門家でも医学のことがわからなければ,それはそれでたいへん難しいでしょう.

本書では,4つのプログラミング言語:Python,R言語,MATLAB,Processingを取り上げました.Pythonは近年の人工知能プログラミングでは大活躍しています.R言語は統計解析のソフトウェアとして開発されましたがPython同様に強力なユーザーグループの支援の元で,科学演算が関わる様々な状況において利用されています.MATLABは市販の数値計算ソフトウェアですが,整備されたライブラリや関数群で,最小限のコーディングでデータを解析して美しいグラフに表示できます.Processingは,汎用プログラミング言語のJavaのアプリケーションでもあり,簡便なグラフィック描画機能と強力なJavaのグラフィカルユーザインタフェース (GUI) のもとで,インターラクティブなアプリケーションの構築が可能です.

本書を手に取られた麻酔科学や脳神経科学に関わる若い世代の読者がプログラミングに興味を持たれて,学習のきっかけになればたいへん幸いに思います.

2021年2月